記事一覧

映画「ノルウェイの森」感想──感想の感想

norway


1000万部を越す大ベストセラーであり、青春小説の傑作であり、また村上春樹が映画化を許さないのに、ついにベトナム人監督が許可を得たという、映画化されるそれだけで大きな話題になっていた作品。DVDで観る。

「ノルウェイの森 感想」で検索すると、わらわらと出て来て、しかもみな長文で力が入っている。
みな熱い。共通するのは「自分には自分の『ノルウェイの森』があるから、どんな映画であれ受けいれる」という姿勢だ。そしてまた誉めたり貶したりいろいろだが、けっきょくは「自分だけのノルウェイの森」以上にはならないのだ。それだけ深くあいされている作品なのだろう。



内田樹さんも、ものすごく思い込みのある感想を書いていた。以下、一部を抜粋。

「忠実度においてすぐれている点」は1968年の早稲田大学のキャンパスの再現。
このヘルメットかぶった学生たちのシュプレヒコールとヘルメットの色分けはまことに現実に忠実でした(社青同がたくさんいて、MLが一人だけしかいないとか、ね。中核と革マルの白メットが出てこないのは「時代考証」した方の個人的な趣味でしょうけど)。


こういうディテールに対する熱い箇所を読むと、この小説はこの世代の作品なんだなとあらためて感じる。この小説が大好きな読者で、社青同もMLも知らないひとは大勢いるだろう。時代とは無縁の若いひとにも、原作を「よくできた青春恋愛小説」として愉しんだひとは多いだろうけど、基本としてこれはそういう時代を背負ったものだ。内田さんのこういう感想を読むとしみじみそう思う。

norway2
小説が発表されたのが1987年だから24年前。文庫本になったのが1991年。
文庫本を高校生の時に読んだというひとが熱い感想を書いていた。いま三十代半ばか。
17歳の時に読んだとしても、舞台となっている1968年には生まれていないことになる。自分が生まれる前の世界の話だ。

原作に対する入れこみ度合も、映画と原作を比較した適確な指摘もすばらしく、感嘆したが、私の心に響いてくるのは上記青字の内田さんのような感想だ。時代感覚なのである。こういう世代は「社青同」「ML」「中核」「革マル」が何であるかまったくわからないだろうが、そのへんはどう解釈しているのだろう。時代劇の百姓一揆でも見る感覚なのか。

そういう解釈、独占?は村上春樹とちかい世代の傲慢とも言えるが、しかしまた二十代は言うに及ばず三十代の作家が書いた青春ものには、こちらがついて行けないのだから、それはそれで五分だろう。むしろ父親の世代の青春モノも自分達のモノにしようとするほうが欲ばりとも言える(笑)。そりゃまあ真に優れたモノは鴇を超えるのだけど(なんという誤変換だろう。絶滅寸前の鴇をどうやって超える)、時を超えるのだけど、今のように携帯電話が普及した時代に、アパートの呼びだし電話とか、公衆電話まで走るとかは、時代劇を見る感覚だろう。やはり「その時代を知っている」は重要と思う。



りっぱな感想が数え切れないほどあるし、そもそも私はこの小説にさほどの思い込みがないから、今更映画の感想を書いてもしょうがない。のめりこめなかった理由は明解で、この小説、あまりに早稲田臭いのである。このキャンパス感覚というのはけっこう大きい。主人公の住む、あの県人寮みたいな施設も受けいれがたい。ああいうところに住む田舎出身の学生は多かった。知人にもいた。私は受けつけなかった。

私は目黒品川で生きていて、日吉と三田に通った。遊ぶ街は渋谷だった。早稲田の街である高田馬場、中野、高円寺、吉祥寺というような地をまったく知らない。単純に言うと「こっちから見て、山手線の新宿より先」である。
前記、内田さんは東大卒だが、早稲田の学生運動とも関わっていたのだろうか。学生運動の早稲田のキャンパスに親しみを覚える感覚は私にはない。早稲田大学は生涯で2回しか行ったことがない。

早稲田大学とも関係なく、東京の地理とも無縁で、作者と年齢も離れていて、とすべてに無関係の人の方がすんなり溶けこめ、夢中になれるのかもしれない。私としては1968年に生まれてもいないひとが、この作品を熱く語る姿には戸惑うのだが、そんなことを言っちゃあおしまいなのだろう。



感想の感想であり映画感想にはなっていないのだが、最後に誰もが触れているあまりにベタな感想をひとつ。
「菊地凛子はミスキャストだと思う」。
こちらのイメージは主人公の惚れる清純な直子であり、目つきのおかしい狂人ではない。しかし菊地は元々のあの険しい目つきをいかし、狂人を演じることにのみ燃えていたようだ。

全体として、やっと原作者から映画化の許可が出て、全世界配給も決定しているから、原作者に認められる作品にしよう、世界中のハルキ・ムラカミファンに恥ずかしくない作品にしようという意気込みというのか、時代背景に対する気配りというのか、そういうものが見えて、誠意ある作品だと感じた。ただ、感動とは無縁だった。

Comments

Post a comment

Private comment

プロフィール

moneslife3

Author:moneslife3
FC2ブログへようこそ!