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映画「容疑者Xの献身」感想──原作小説と映画の落差──ミスキャスト堤真一の熱演

yogisha

DVDが発売になった頃に入手して見始めたのだが、すぐに白けて投げてしまい、途中でやめた。
原作の単行本が出たのが2005年の夏。本はこのころに読んでいる。その年の冬の直木賞を受賞。
映画になって公開されたのが2008年秋。とするとDVDが出たのは2009年の春か。そのころに入手して、何度か見ようと試み、今回やっと最後まで見たことになる。

途中で投げた理由は、犯人役が堤真一である違和感だった。
主役は湯川役の福山雅治ということになっているが、この種のシリーズの本当の主役は犯人役である。「刑事コロンボ」も「古畑任三郎」も。
この作品の犯人石神役に、どう考えても堤は不似合いだった。



犯人・石神は、数学の天才である。学生時代は柔道をやっていた。そのまま学問を続け学者になりたかったが母親の介護のために安定した収入の高校教師になる。40近いいまも独身で、数学さえやっていればいい学者肌だ。でも現実の教師生活は、生徒達も学習に熱心ではなく、幻滅している。
隣人の子連れ元ホステスにほのかな恋心を抱いている。その元ホステスが弁当屋を始めた。毎朝そこで弁当を買って出勤するのが楽しみだ。
その弁当屋の元ホステスが、縁を切ったはずなのにしつこく絡んでくる粗暴な元亭主を殺してしまい、そのアリバイ作りをしてやる。彼女を守る石神、そのアリバイの謎を解く湯川、というストーリィ。



石神はどう考えてもかっこいいひとではなく、もてるタイプではない。スタイルも想像できる。原作を読んで私がイメージキャスティングしたのは斉藤暁のようなタイプだった。

saito


久し振りに学生時代からの友人である湯川と会った石神が、「おまえは老けなくていいな」と言うシーンがある。物語の基本として重要なセリフだ。
しかしぜんぜん老けていないハンサムな堤がそれを福山に言っても、ふたりともいい男なので何の意味もない。学生時代と同じく好きな研究の道に生きて若々しい湯川と比して、生きて行くために教師の道を選び現実に絶望している石神は、老けていなければならない。片思いの子連れ元ホステスとの恋にためらうほどの容姿コンプレックスだ。それはやはりハゲとかデブになるだろう。なのに堤真一。かっこよすぎる。

その元ホステスが好きな男の役にダンカン。ダンカンのクルマから降りてくる元ホステスを妬ましげに覗き見る堤。「配役が逆だろ」と誰でも突っ込みたくなる。



感覚はひとそれぞれだが、すくなくとも原作を読んで、この犯人石神に堤真一のイメージを抱いた人はいないだろう。

とはいえこの犯人役は形式的な主役の福山を凌ぐ本物の「主役」なのだから、斎藤的な地味なキャラクターでは興行的な成功はおぼつかない。ということから堤になる。のだろう。しかしなあ……。

そのへんは制作者も堤自身もわかっていることだから、堤は一所懸命「さえない男」「陰気でつまらない男」を演じる努力をする。「気味悪さ」をだそうとする。監督はそういう演出をする。でも二枚目が無理に三枚目を演じるのは不自然で、最初から石神に似合った役者を起用しろよと言いたくなる。



bushi


木村拓哉が主演した時代劇「武士の一分」でいちばん光ったのは中間役の笹野高史だった。それまで「ワンシーン役者」だったのに、あの役で注目を浴び一気にメジャーな存在になった。テレビのバラエティにも進出し、17歳年下の妻との結婚秘話から男の子四人の家庭生活まで話題になった。

この映画でも、そういう形の「石神役の地味な俳優が一気にブレイク」は演出出来なかったのか。
まあ「武士の一分」の場合、全面にキムタクが出ていて、中間の笹野は補助役で光ったのであり、今回は、全面に石神が出るから、やはり無理か。「武士の一分」でどんなに笹野が光ったとはいえ、それはキムタクあっての、脇役としての光であり、笹野主演の大作はありえないのだから。

今回も福山が全面に出る真の福山主演の映画であったなら、そういう脇役の光もあったろうが、福山は主演と言う名の助演だったから、実質的主演に地味な俳優起用は無理だったのだろう。
堤が地味でつまらない男、気味の悪い男を熱演すればするほど、これは堤の役じゃないよという想いから逃れられなかった。



yogisha2


しかしそれは毎度の「原作」との問題であり、原作は読んでいず、テレビドラマの延長としてみた人にそんな思いはないのだろう。
私は東野圭吾の原作ガリレオシリーズはぜんぶ読んでいるがテレビドラマは一度も見ていない。違和感で言うなら湯川役の福山からあった。でも湯川役は主役であって主役ではないからどうでもいい。直木賞をとったこの傑作ミステリーは石神役こそが最重要だった。

さらにはテレビでは華があるようにと原作の湯川と親しい男刑事を女刑事(柴咲コウ)にしている。その延長であるからこの映画ももちろん女刑事だ。女はいらない。でもたしかに、テレビで男ばかりになるとつまらないのか、とも思う。

いま私はテレビドラマを見ないけど、もしも見たなら、女好きとして、きれいどころが出ていないと物足りなく思うのだろう。そういや「太陽にほえろ」のような警察ドラマでも適度に女刑事を配していたな、と想い出す。私は裏番組のプロレスを見ていたので、同時間のこれとか「金八先生」とかはまったく知らないのだけど。
だから、なんつうか、ともかく、原作ファンがテレビ版やその延長である映画を語ってもしょうがないのだと思っている。しかしそれにしてもなあ……。



Drkoto


これはマンガの「Dr.コトー診療所」を読んだあと、テレビ版を見て、あまりのちがいに驚いたのと通じる。そういえばあれにも柴咲コウが出ていた。高視聴率女優、なのかな? あの作品の柴咲の看護婦役は原作と雰囲気が通じていて不満のないキャスティングだった。

マンガのコトーは、ドタバタする面もあるが、基本としてクールな医者であり、ここが肝腎だが「医者として凄腕」なのである。そして医療のあり方について悩んでいる。
ところがテレビ版では、まずはワンパターン吉岡の起用がトンデモだと思うが、毎度のベタベタしたしゃべりで、凄腕の医者どころか新米やぶ医者の人情物のようになっていた。毎度、寅さんが出てきて頼りない吉岡を「コラ、満男!」と叱るのではないか、案じた田中邦衛が「純……」と心配げに話しかけてくるのではないかと思えた。

テレビ版の「Dr.コトー」好きの友人に原作とのちがいを確認して欲しくて、「これを読んでみろ!」と電子ブックの「Dr.コトー」を送ったのだが、先日のメールでまだ読んでいないと知った。もう何年かになるのに。つまりこれは、テレビ版で満足している人には、原作がどんなものであるかなど興味がない、ということなのだろう。別物であり、「原作はこんなにもいい、なのにテレビ版はウンヌン」と言われるのは、好きな女を貶されるような不快なことなのだ。



kamata


その感覚は私にもわかる。
今もよかったと思うのは、映画「蒲田行進曲」を原作を読まずに見たことだ。あれは1982年公開だからもう30年近く前なのか。男同士三人で、蒲田行進曲であるからして蒲田の映画館で見た。まあ目蒲線沿線に住んでいたからでもあるのだが。
とてもおもしろく、心に残り、しばらくは蒲田行進曲ごっこをやったほどだった。

あれも原作を読んでいたなら、頭の中で「銀ちゃん」「ヤス」「小夏」のイメージが出来てしまい、風間杜夫、平田満、松坂慶子という配役に不満を持ったろう。なにしろ強烈な原作だから、あれを読んでいたなら読者それぞれの頭の中でイメージが出来てしまう。後に原作を読んだが、映画の映像イメージが出来上がってしまっているものだから、ぜんぜん酔えなかった。

映画が最高だったとはしゃいでいるとき、原作を読んでいて、つかの舞台も見ているような詳しい人から、映画を否定するようなことを言われたなら、私はまちがいなく不愉快になったろう。そんなのしったこっちゃねえよと。
私がここで「容疑者」の原作を讃え、映画を批判するのはそういうことに通じる。



ということでいきなり丸く収めるが(笑)、このテレビのスペシャルドラマみたいな映画は、とてもよくできていた。ミスキャストという考えを枉げる気はないが、堤真一の演技はさすがだった。ラストでは私は涙ぐんだ。
だから、まあ、それでいいのだろう。原作小説の見地からテレビドラマや映画を語るのは粋ではない。原作のイメージを大切にしたかったら映画など見ない方がいい。

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【どうでもいい附記】


最初ATOKで、「容疑者Xの献身」が「容疑者Xの検診」と変換された。たしかに容疑者なら献身よりも検診だろうなと、みょうにおかしかった。

kanren6

韓国版・映画「容疑者Xの献身」

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【追記】──二度目の視聴──2013/6/5

行方不明になっていたDVDが出てきたので、二度目の視聴。前回が2011年10月だから1年8カ月ぶり。
テレビじゃなくPC。二面ディスプレイの正面であれこれ作業しつつ、右サイドで流すという、ながら視聴。
それでもおもしろく途中から釘づけになった。

最初に観たとき、堤真一しか覚えてなかったのだが、「主演福山」だけあって福山も最初からけっこう出ていたのだと知る。それだけ私にとっては「堤真一の映画」だったことになる。

感想の結論は同じ。堤真一がかっこよすぎる。もっと不細工な俳優でないとダメ。これに尽きる。

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